2006年 02月 12日
佐藤優『国家の罠』 情報の世界の常識 |
今回はちょっと長くなります
191ページ
情報のプロはお互いに言ってはいけないことがなにかよくわかっているし、そういうことについては尋ねない。
216ページ
「あなたのことについて誰よりもよく知っています」などと(検事が)威嚇を加えてくるのは、実のところ私について検察は十分な情報をもっていないということだ。本当に十分な情報を持っているものは、そのことについて言わないのが情報屋の世界では常識だ。これは検察にも適用されるだろう。
217ページ
情報屋の基礎体力とは、まずは記憶力だ。私の場合、記憶は映像方式で、何かきっかけになる映像が出てくると、そこの登場人物が話し出す。書籍にしてもページがそのまま浮き出してくる。しかし、きっかけがないと記憶が出てこない。
221ページ
金銭に執着のないものは害して自己顕示欲を抑えることができる。第一印象で大森(一志)弁護士に好感を持った。
実は情報の世界では、第一印象をとても大切にする。人間には理屈で割り切れない世界があり、その残余を捉える能力が情報屋にとっては重要だ。それが印象なのである。
227ページ
外交や特殊情報は弁護士には苦手な分野なので、この関連での必読書について尋ねられた。そこで、私は『われらの北方領土』(外務省国内広報課)、和田春樹『北方領土問題』(朝日新聞社)、ボルフガング・ロッツ『スパイのためのハンドブック』(ハヤカワ文庫)を推薦した。
228ページ
さらに私が(弁護士に)要請したのはクオーター化の原則である。この原則は情報の世界では当たり前のことであるが、全体像に関する情報をもつ人を限定することである。知らないことについては情報漏れはないので、秘密を守るにはこれが最良の方法だ。檻の中にいる者には極力情報を与えず、檻の中から得る情報については弁護団だけが総合的情報をもつようにするという考え方である。
240ページ
情報の世界では「存在しない」という話は当事者が合意しない限り、最後まで「存在しない」のである。そして、「会っていない」という約束になっている場合は、誰が何を言おうともあくまでも「会っていない」のである。このルールについては徹底的な遵守が要求される。そしてそれを破った場合、ルールを破った者に対して属人的に責任が追求される。この世界に時効はない。
256ページ
現時点で考え直しても、あの時点で(外務省での自分の「チーム」を守るために)検察に(あるレベルで)迎合したことは正しい判断だったと、私は思っている。国際スタンダードで考えた場合、情報専門家にとって、政治裁判での有罪・無罪は本質的な問題ではない。問題は、私が育ててきた「こと」と人材を生き残らせることである。このことだけを私は考えていた。
決して格好をつけているわけではない。この方が長い目で見て、私に生じうる危険を最小限にし、特殊情報コミュニティーにおける私のプロとしての資格を守るために重要だったのである。
抜き書きに入れませんでしたが、この本、前半部の随所に「ロシア人は、信頼する人にしか『お願い』をしない」という類の文章が繰り返されます。結局のところ、情報屋も人間対人間の関係であって、信頼や誠意といったことが最重要視される世界なのかな、と思うのです。
240頁の“この世界に時効はない”という言葉は、その世界の厳しさが如実に表れているような気がします。
191ページ
情報のプロはお互いに言ってはいけないことがなにかよくわかっているし、そういうことについては尋ねない。
216ページ
「あなたのことについて誰よりもよく知っています」などと(検事が)威嚇を加えてくるのは、実のところ私について検察は十分な情報をもっていないということだ。本当に十分な情報を持っているものは、そのことについて言わないのが情報屋の世界では常識だ。これは検察にも適用されるだろう。
217ページ
情報屋の基礎体力とは、まずは記憶力だ。私の場合、記憶は映像方式で、何かきっかけになる映像が出てくると、そこの登場人物が話し出す。書籍にしてもページがそのまま浮き出してくる。しかし、きっかけがないと記憶が出てこない。
221ページ
金銭に執着のないものは害して自己顕示欲を抑えることができる。第一印象で大森(一志)弁護士に好感を持った。
実は情報の世界では、第一印象をとても大切にする。人間には理屈で割り切れない世界があり、その残余を捉える能力が情報屋にとっては重要だ。それが印象なのである。
227ページ
外交や特殊情報は弁護士には苦手な分野なので、この関連での必読書について尋ねられた。そこで、私は『われらの北方領土』(外務省国内広報課)、和田春樹『北方領土問題』(朝日新聞社)、ボルフガング・ロッツ『スパイのためのハンドブック』(ハヤカワ文庫)を推薦した。
228ページ
さらに私が(弁護士に)要請したのはクオーター化の原則である。この原則は情報の世界では当たり前のことであるが、全体像に関する情報をもつ人を限定することである。知らないことについては情報漏れはないので、秘密を守るにはこれが最良の方法だ。檻の中にいる者には極力情報を与えず、檻の中から得る情報については弁護団だけが総合的情報をもつようにするという考え方である。
240ページ
情報の世界では「存在しない」という話は当事者が合意しない限り、最後まで「存在しない」のである。そして、「会っていない」という約束になっている場合は、誰が何を言おうともあくまでも「会っていない」のである。このルールについては徹底的な遵守が要求される。そしてそれを破った場合、ルールを破った者に対して属人的に責任が追求される。この世界に時効はない。
256ページ
現時点で考え直しても、あの時点で(外務省での自分の「チーム」を守るために)検察に(あるレベルで)迎合したことは正しい判断だったと、私は思っている。国際スタンダードで考えた場合、情報専門家にとって、政治裁判での有罪・無罪は本質的な問題ではない。問題は、私が育ててきた「こと」と人材を生き残らせることである。このことだけを私は考えていた。
決して格好をつけているわけではない。この方が長い目で見て、私に生じうる危険を最小限にし、特殊情報コミュニティーにおける私のプロとしての資格を守るために重要だったのである。
抜き書きに入れませんでしたが、この本、前半部の随所に「ロシア人は、信頼する人にしか『お願い』をしない」という類の文章が繰り返されます。結局のところ、情報屋も人間対人間の関係であって、信頼や誠意といったことが最重要視される世界なのかな、と思うのです。
240頁の“この世界に時効はない”という言葉は、その世界の厳しさが如実に表れているような気がします。
by scluge
| 2006-02-12 00:11
| 本読風情