2007年 02月 14日
麻巳ちゃん特製 コーヒー味のチョコレートはいかがですか? |
はい、というわけで、久しぶりの竹内麻巳です。
麻巳がこんな笑顔で浩樹にチョコレートを渡してくれるかどうかは分かりませんが(苦笑) 本編での今頃って、まだエリスとの決着ついてないですよね、確か。後ろにイーゼルのオーラを見せながら、にっこり笑ってチョコレートを渡す麻巳…ちょっと怖いか。
【麻巳のスイート?バレンタイン】
「上倉先生、起きてますか?」
「ん…あぁ、一応な」
部活も終わって、みんなが帰って…わたしは美術準備室の上倉浩樹先生に声をかけた。
2月も中旬、先生にしては珍しく、部活の頭に顔を出して、(少なくとも)逃げずに準備室にいた。
ただ…来た時からすでに顔色悪かったけど…むっくりと机から顔を上げた今の先生の顔もやっぱり良くない。
「どうしたんですか、ずっと顔色良くないみたいですが」
「あぁ………まぁ、今日はそういう日だ、ということだろうな」
「…?」
「何が悲しくて、この年になってチョコレートをバリバリ食わなきゃならんかね」
「あはは、なるほど。みんなから貰ったんですね~」
「笑い事じゃないぞ。それ、見てみろって」
先生があごでしゃくった方向を見てみる。
ゴミ箱の中で、色とりどりのパッケージの残骸が山積みになっていた。
そう。今日は2月14日。女の子の日…なんて言うと違うか。
バレンタイン・デーである。
千葉の某監督だったり、某乳製品チームの新外国人も同じ名前だけど、ともかくも、先生の云うとおり『そういう日』なのである。
「上倉先生、学園生に慕われてますね♪」
「笑って言うなよ。これでも半分なんだぞ。もう半分は職員室で食べたんだが…」
相変わらずゲンナリした顔で先生が言う。
そこまで食べたところで、教頭先生にさっくりと注意されたとか。
ちなみに、美術室に来たとたん、部員たちからも渡されていたわけだけど。
「まったく、何でこんなボンクラ教師にチョコ寄こすかね。同世代の男子どもが欲しがってるだろうに」
「その点にはまったくもって、同意です」
ホント、いつもいつもサボり魔で、グーたらで、だらしなくて、口は悪いし、三白眼で…とにかく不良教師だというのに、この上倉先生は不思議と学園生から人気があった。
「…なんか竹内に当然のように言われると、癪に障るな」
「であれば、そう言われないように、顧問としての自覚もってください。もう部活終わっちゃいましたよ」
「あー、そりゃ悪かった。さすがに胸焼けがおさまらなくてな…」
「こんな量食べれば、むしろそれが普通です。今日、全部食べる必要ないじゃないですか」
何もこんなにいっぺんに…律儀といえば律儀なのはこの先生らしいけど。
「…ウチに持って帰るとうるさいのがいるからな」
なるほど、『お兄ちゃん』が他の人からチョコレート貰ってたら、さすがに鳳仙さんも嫉妬するのかな。
そういえば、今日は部活の間中、楽しそうだったっけ。
「あはは、鳳仙さん、楽しそうに帰っていきましたね」
「『えへへ、お兄ちゃん、手作りチョコ楽しみにしててねっ♪』って、満面の笑みで言ってたがな」
「……それが何か問題でも?」
チョコレートでお腹いっぱいなのは分かるけれど、別にもうひとつくらい…
「竹内は知らないからそういうこと言えるんだよ。エリスの料理がどういうものか」
上倉先生曰く、彼女の料理は『舌の上で死霊が盆踊りを踊るようだ』とか…。
………えっと……
「えと、その、上倉先生」
「ん、何だ?」
「先に謝っておきます。スミマセンっ」
「は?」
「これ、どうぞっ!!」
無理やり笑顔をつくって、先生に手渡す。
「どうぞ…って、これ、まさか…」
“今日”で、ハート型にラッピングされているもので、中身を疑う人はたぶん日本人にはいないだろう。
先生も分かっていて、疑問の声を呈しているのだ。
「…ご想像の通りです……」
「ハァ…まさか、竹内までチョコレートよこしてくるとはな…かなりびっくりだぞ」
「何とでもおっしゃってください」
ちなみに、1対1で渡せるタイミングのために部長という立場を利用しているのは内緒だ。
今日は適当な理由を付けて、ほんの少し早めに部活を終わらせている。
これは抜け駆けじゃないわよね。みんな渡してるんだし。
「そうか…まぁ、頂くか」
ほんの少し疲れたような顔をして、先生がパッケージの封を開け始める。
「あのですね…先生」
「ん?」
「一応、それ…手作りなんです……」
「…………………手作り?」
「はい」
「…………なるほど」
話している最中に完全に開かれてしまった、手元のチョコレートを先生が見つめる。
わたしの料理の腕を知っている先生なら、当然の反応だ。
上倉先生の頬を、一筋の汗が伝っているのが見えた。
「それでですね、食べるのがお嫌でしたら別に食べなくても…」
(パリ…)
“いいんですよ”と続けようとしたわたしの言葉は、先生がチョコレートを噛んだ音で途切れた。
「上倉先生っ!?」
「…………竹内…」
「はい…」
「まずいぞ、これ」
「済みません…」
というか、分かってて食べる先生もどうかと思うけど。…いや、それをわたしが言ってはいけないんだ。
先生がこういう時、絶対に断らないのを分かっててやってるんだから。
「というか、チョコレートにコーヒー入れるか、普通?」
「いえ、その、あのですね、もしチョコレートばかり食べてて甘いのに飽きてたら、おいしく食べられるんじゃないかな、と…思いまして…」
自分でも情けないくらい、小さな声。
謝るくらいなら作らなきゃいいのに、と思いつつ、心のどこかで『先生なら食べてくれる』なんて考えてた自分が、昨夜には居たのも事実。
「まぁ…これはこれで苦味のあるチョコレートのひとつの形か」
「あの、ですから、もうこれ以上食べなくても…」
「いいさ、別に。くれたモンは食わなくちゃ竹内にも悪いだろ」
そう言いながらパリパリモソモソと、わたしの作ったチョコレートを少しずつ咀嚼していく上倉先生。
そんな先生を見ていたからなのか、ぽろっと本音が出てしまった。
「…上倉先生は本当にお優しいですよね」
「ん、そうか? 俺は別にそのつもりはないがな」
ようやく食べ終えた上倉先生がわたしの言葉に首をひねる。
「そうですよ。だからみんなも…私だって、先生のこと…」
この続きが言いたくて仕方ない。でも…肝心のあの子との決着がついていない。
「竹内?」
「いえ、なんでもないです。とにかく、先生は不良教師ですが、時々、優しいまともな教師のときもある、と言いたいだけです」
「それって褒めてるのか?」
「褒めてるんですよ」
「…そうか。俺も竹内に褒められるようになったか。うんうん」
「何、納得してるんですか」
「いや、何、竹内にこれまで怒鳴られたり、イーゼルでぶん殴られた記憶が走馬灯のように…え…?」
そこまで言ったところで、椅子に座っていた先生の体がいきなりぐらついて、前に、わたしのほうに倒れかかってきた。
「か、上倉先生!?」
慌てて抱きとめる。
弾みで、わたしも尻餅をついてしまう。
…服越しに感じる、男の人らしいがっしりした体。思ったよりも高い身長や、広い肩幅。
一回だけ、『貧相な体』なんて言ったことあったけど…前言撤回、かな。
「……悪い。何か意識が…」
「無茶な食べ方するからですよ。……しばらく支えてますから、じっとしててください。そうすればそのうち動けるようになると思いますし」
「……ああ、済まないな…」
(すぅ…すぅ…)
穏やかな先生の呼吸。
先生に抱きつかれている恥ずかしさもちょっとあるけれど、ハプニングで訪れた役得に感謝した。
ほんの少しの時間、先生の体の温かさを感じながら…。
※誤植、修正しました。
と言うわけで、ものすごく久しぶりの麻巳SSです。『ラベンダー色の~』以来なのかな?
当初予定の5倍くらいの文量になってしまいましたが…。やっぱり麻巳は書いてて楽しいですね。
ちなみに伝統奥義を出さなかったのはわざとです。たまにはしっとり(?)した感じで終わらせるのもありかと(笑)
内容に関してはまぁ…ブタベの基本と言う感じもありますが、起承転結が無いので、物語としては失格かと。この辺どうにかしないとまずいですねぇ。
さて、腹案で
『実はそのチョコレート、御園神社でとある呪いをかけてもらったんですよ』
『は?』
『絵が永遠にかけなくなる呪いです』
『なにぃっ!』
『ちなみに、この呪いを解くには、撫子の学園生の女の子に裸でシーツを羽織らせて絵に描かなければならないそうです』
『…俺にセクハラをやれと?』
『ちなみに、イーゼルボンバーでも解けますが、どっちにします?』
『…絵でいいです……』
こうして浩樹はその後絵をちゃんと描けるようになったとさ。
なんてのを考えてましたが、無茶苦茶なのでやめました。や、シーツを羽織った麻巳は描きたいんですけどね(笑)
そんなわけで、今年のバレンタインデーは麻巳でした。もう描かないだろうなぁ、とかなり確信をもって思っていたんですが、マク様のSSの影響は大きかった、ということで。とはいえ、同じバレンタイン絵でも、懸巣様のような皆様に喜んでもらえる素晴らしい絵は描けませんでしたが(^^; 描こうと思ったのが今日の8時なので、推敲する時間もなく(思いついたのが、何故か『クローズアップ現代』を見ながらでした)。
そういえば、去年のこの時期って何か描いてたかな…。トリノ五輪の頃でしたっけ。
by scluge
| 2007-02-14 22:22
| 絵