2007年 06月 05日
-Unlimited Canvas Works- (Last Updated Edition) |
ちょっと前に大団円(?)を迎えましたCanvas2 リレーSSシリーズ『Unlimited Canvas Works』ですが、お話を書かれた皆様のご許可が得られましたので、ここに掲載させていただきます。一応、麻巳がメインなのでトップ絵まで設置(笑)
今回はこのページに載せますが、そのうちサブブログ『天つ乙女たち』のほうに回そうかと思います(あっちのほうが回転が遅いので)。
正直、振り返ってみるとリレーの形になってしまったのは、ブタベが偶然『砂煙の中に浮かんだ人影に向かって、彼女は駆け出した』の部分を入れてしまったのが原因(笑) ごめんなさい、で終わらせてしまえばこんな事態にはならなかったのに…文章というのは面白いですね。
というわけで、掲載許可を快く下さったマク様・早坂様・朝霧様に感謝を。改めて並べてみると壮観です。
絵は心で出来ている。
キャンバスは記憶で、表現は理想。
幾つものモチーフを経て達せず。
ただ一つの失敗もなく、
ただ一つの完成もない。
描き手はただ独りイーゼルの前で絵筆を走らす。
さらば、彼の生涯に意味を与えよう。
その想いは“無限のキャンバスに描かれていた”
-Unlimited Canvas Works-
○First Sketch
いつものように、サボリを決め込んだ浩樹だったが、今日は勝手が違った。
なぜか校庭に引きずり出され、さらにどういうわけか、助けを求めるべき生徒がどこにもいない。
部活中のはずなのに…それが『水彩の悪魔』と呼ばれた少女の画策だと気づいたときにはすでに遅かった。
「ふふふ・・・先生、もう逃げられませんよ」
妖しげに笑う、美術部長竹内麻巳。
浩樹が周りに目を転じたとき、すでにイーゼルが何本も立っていた。
「こ、これは…」
「だから言ったじゃないですか。いつか本当の恐怖を味あわせてあげますって」
「な、なぁっ、竹内。怖い顔していると美人が台無しだぞ!?」
すがる思いで、浩樹は目の前の美少女の毒気を抜く作戦に出た。
普段まじめな分、彼女がこういう言葉に多少なりとも弱いのを知っていたからだ。
「………」
「………」
ほんの数十秒だが、二人の間に流れる沈黙。
「…(き、効いたか…っ?)」
「そ…」
「そ?」
「そんな言葉がいまさら通じると思ってるんですかーーーーっ!!」
さっきまでの笑みは消え、悪魔のような形相に変じる美少女…
怒ってても美人だな…そんなことを浩樹が思ったのも束の間だった。
「これで終わりですっ!! イーゼル・アセンブル・ボンバー!」
「ぎゃーーーっ!!」
無数のイーゼルがふわっと浮かび上がった瞬間、浩樹に向かって一直線に襲い掛かっていった。
砂塵を見つめながら麻巳がつぶやく。
「ごめんなさい…」と。
手持ちのイーゼルを上段に構え、砂煙の中に浮かんだ人影に向かって、彼女は駆け出した。
○Second Sketch
そして、麻巳がイーゼルを振り下ろそうとしたその時、意外なものが
目に入った。
「くっ!」
勢いのついたイーゼルが「それ」と紙一重のところで止まる。
「さすがだな、竹内」
一陣の風が砂塵を吹き散らし、現れたのは瀕死のはずの美術部顧問だった。
「上倉先生……どうして」
浩樹は無傷だった。
あれほどのイーゼルをかわせるはずがない。
麻巳がそう思ったのも無理はない。
浩樹はゆっくりと歩を進めると、麻巳のイーゼルを奪い取った。
「あ……」
なぜか身動きひとつ出来ない麻巳。
そんな麻巳を見下ろし、浩樹は口を開いた。
「竹内、一度しか言わないからよく聞いておけよ。イーゼルってのはな、
ひとを傷つけるためのものじゃない、絵を描くための道具なんだよ」
浩樹はイーゼルを立てかけると、こう言った。
「Unlimited Canvas Works」
アンリミテッド・キャンバス・ワークス。
それはひとつの魔法だった。
「俺にはこれしかできないからな」
そう言って、浩樹は生み出した無限のキャンバスを、麻巳が生み出した
無限のイーゼルに立てかけていく。
「キャンバスってのは、まっしろだ。それに描くのはなんでもいい。
青い空でも、白い雲でも、茜色の夕やけでも、セピア色の教室でもな」
浩樹は、使い慣れた絵筆をあやつり、無限のキャンバスに絵を描いていく。
美術部部長の麻巳が、キャンバスを大切に思っていることは当然であり、
それゆえに浩樹が生み出したキャンバスを傷つけられなかったのだろう。
いや、麻巳自身の心にも、浩樹を傷つけるつもりなどなかったのかも
しれないが。
「ごめんなさい……」
と、麻巳はつぶやき、浩樹の胸に向かって駆け出した。
○Third Sketch
その時、視界の隅に見えた物に気が付き、駆け出した麻巳の足が止まる。
「どうした?」
麻巳は無言で指差した。そこに有るモノを凝視し、浩樹は恐怖のあまり身を固くする。
……『Unlimited Canvas Works』それはつまり。
固有結界、自らの心象世界による現実世界への侵食であり。そこにあるCanvasの殆どは、いまだ見ぬ世界を彩るための純白であるが。
全てを賭して、全てを捉えて描かれた最高の心の表現である絵ならば、それはこの世界に登録され、永遠に消えることはなく。
つまり、それはそういう絵だった。
「桔梗霧、じゅうななさい、スキナモノ……?」
好きなモノ、好きな者――上倉浩樹。
本質を捉え、見たものに全てを知らしめる最高の表現。それは絵画の究極。
彼女の真っ直ぐな気持ちを正しく捉え、表現していたその絵は。最高の一枚であると同時に、この場では最悪でしかなかった。
「ふっ。俺も若かった……」
「なにを落ち着いてるんですか、このうわきものーーーーー!!」
その辺に無限にあるイーゼルは、確かに絵を描くためのものだ。
しかし、その時彼女が振りかぶったモノは。『一撃入魂』だの『サボリ魔退散』だのと、物騒な文句の書かれたイーゼルだけは。
妙にスローに見える終わりの光景を見つめながら、『それ』だけは間違いなくこのためだけに存在する規格外の一品なのだと、妙に納得してしまいながらも。
きっとお前の絵もどっかにあるぞ~、と言えなかったことを激しく後悔する浩樹だった。
○Forth Sketch
これで終わりか、と浩樹が思ったとき、結界内にひとりの少女の叫びが
響いた。
「だめーーーーーっっっっ!!!」
その声が空気を震わせ、風を発生させ、無敵のはずのイーゼルの一撃を
受け止める。
「なっ!」
驚愕に目を疑う麻巳。
「もしかして、これが風王結界……」
風王結界。またの名をインビジブルエア。
無音であり、不可視の神秘の風が、浩樹を守ったのだった。
「これを使えるということは……」
「ダメですよ、竹内部長」
見えない風をまとい、麻巳の前に現れたのは。
「鳳仙さん……」
鳳仙エリスであった。
「エリス……どうしてここに」
浩樹が呟く声に、嬉しそうにエリスは答える。
「もちろん♪ お兄ちゃんを連れて帰るために決まってるじゃない。
もうすぐ夕飯なんだから、ご飯の支度してもらわなくっちゃ♪」
「「……」」
なぜか、同じようにこめかみを押さえる浩樹と麻巳。
「さあ、覚悟はいいですか」
不適な笑みを浮かべ、見えない剣を構えるエリス。
すると、先ほどと同じく強烈な風が、結界内を吹き荒れる。
風を解き放つエリス。徐々に、その手に持っているものがあらわに
なっていく。
「そ、それは!」
エリスの持っているもの。それは、1本の絵筆だった。
飾り気のない、けれど、この世の何よりも美しいと思える1本。
「これは、お兄ちゃんに貰った大切なもの。だから、これで終わりです!」
エリスは、それを振りかざし、真名を解き放った。
「約束された勝利の剣! エ・リ・ス・カリバー!!!!」
強烈な光が、結界内を覆いつくし、浩樹と麻巳を飲み込んだ。
「ちょ、なんで俺まで……」
浩樹の呟きすらも飲み込んでいく光の海。
食べ物に関することになると、力をセーブできないエリスは、皆に影で
『食欲王』と呼ばれていた。
○Fifth Sketch
「あの…」
「…なんだよ、竹内」
「何で私まで上倉先生のお宅で夕ご飯、食べてるんでしょう…?」
「……俺に聞くな」
「えー、みんなで食べたほうがおいしいじゃないですかー」
「お前は黙ってろ、食欲魔人」
「うぅ、お兄ちゃんがひどい~」
「ところで先生」
「あん?」
「先ほどのキャンバスに描かれていた霧先生の絵の件なのですが」
「ギク」
「あー、私もそれ気になるよー」
「あれは…まぁ、その何だ…気にするな」
「上倉先生~?」
「お兄ちゃん~?」
「…お前ら、目がこわいぞ」
テーブルの向こう側から見つめてくる二人の目。
いや、睨んでいる、と言ったほうが正しいだろうか。
視線の先の男はさしずめ蛇に睨まれた蛙。
下手な抵抗をすると、余計に危険なことになりかねないことを彼は経験上知っていた。
「やれやれ…」
浩樹は思わずため息をついた。
○Last Sketch
「そう騒がんでも、お前らの絵もあるだろ」
「そ、そうなんですか?」
「ホントに?」
「……たぶんな」
絵を描くにあたり、まずは心の中で完成系を夢想する。
それが永遠に心に刻まれるほど素晴らしければ、それが登録される。それが『あの世界』のルールだった。
殆どの場合、実際に筆を使って描いた絵よりも素晴らしい。現実に描いたものと相違無いとしたら、それこそ巨匠と呼ばれる存在になるのだろう。
「エリスの絵は昔から描いてるだろう。一つや二つは、そりゃ有るさ。霧のも、そういうものであって他意は無いぞ」
「やったー!」
無邪気に喜ぶエリス。
さりげなく霧の件も言い訳しておいたが、上手くいったらしい。
「……そうすると、なんで部長の絵まであるの? 描いたことなんてあったかな」
「ギク」
「ああ、つまりこの前のヌードデッサ……」
「おいこら竹内! 馬鹿お前なに言ってんだ!」
「おーにーいーちゃーんー?」
「お、おい、竹内! お前からも何とか言え!」
「えっと、えっと……。そ、そうでした。布を一枚被ってたのでヌードではないですよね!」
「変わらんわーっ!」
○Extra Sketch 『今まで出番が無かった人達の主張』
「いいなぁ、麻巳ちゃんやエリスちゃん出番あって~、私も出番欲しいっ!
と、いうわけで~、行くよ! バーサーカー!」
「・・・可奈ちゃん、だーれーがー、バーサーカーなのかしら?」
「いたひいたひ、紫衣さんほっぺたひっぱらないでー」
「バーサーカーなら私じゃなくて鷺ノ宮さんの方が似合うじゃないかしら」
「あら? なんで私がバーサーカーなんですの?」
「さ、鷺ノ宮さん・・・あの、その・・・」
「私は車じゃないですわ、乗り手はライダーって言うんですわよ?」
「・・・あはは、たしかにライダー、だよね。」
「あら、美咲さんどうしたの? 気分悪そうだけど・・・」
「桔梗先生・・・いいんです、私ははぶられたのですから」
「は、はい?」
「だって、私だけドラマCDに呼ばれなかった事あるんですよ?」
「あ、えっと・・・」
「いいんです、一番陰が薄いヒロインだって噂されてるの知ってますから」
「あ、あの、美咲さん?」
「いいんですよ・・・・ふふふ、ノートに書き留めておかないといけない
ですね、ふふふふふ」
「・・・」
「そういえば、桔梗先生は最初のドラマCDで一人で1話担当されてましたね」
「あ、その・・・えっと・・・」
「あのときは姉のおかげで私の出番が減ってしまいましたっけ・・・」
「・・・あは、あははは」
「桔梗先生はいろんな作品でそれとなく出番があるからいいですよね」
「・・・それもそれで考えようなのだけど」
「ふふふふふ」
「あははは・・・はぁ」
「出番がない人を救済しようとして無理矢理全員を出そうとして、
失敗してるよい例よね?」
・・・
「さらに、役割分担も上手くいってないし、桔梗先生が全員と当たる
だけだからランサー?っていう説明も私にさせるくらいの失敗してるし」
・・・
「そりゃ、作者である以上普通はSSに出てくるわけにはいかないだろうから
反論できないのはわかってるけど・・・」
・・・
「現実って厳しいのよね」
・・・
「だから一言だけ、言って良い?」
・・・
「理想(ネタ)を抱いて溺死しろ!」
最初の詠唱は、固有結界「無限の剣製-アンリミテッド・ブレードワークス-」の士郎&アーチャーの詠唱をちょっと改造してみたものです。正直、Fate自体をプレイしてないので結構微妙なものになってますが…プレイしたことのある方の修正を期待します(笑)
以下、クレジットです。
○First Sketch ブタベスト
http://scluge.exblog.jp/d2007-04-25
○Second Sketch 朝霧玲一様
http://d.hatena.ne.jp/kmx1328/20070426
○Third Sketch マク様
http://zdfgrzgr.jugem.jp/?eid=106
○Forth Sketch 朝霧玲一様
http://d.hatena.ne.jp/kmx1328/20070429#1177853051
○Fifth Sketch ブタベスト
http://scluge.exblog.jp/d2007-05-07
○Last Sketch マク様
http://zdfgrzgr.jugem.jp/?eid=91
○Extra Sketch 早坂充様
http://www.pluto.dti.ne.jp/~ayasaki/diary/vss.html#070502
ある意味贅沢なリンクの飛び方になりましたね。初っ端始めてしまった身として、皆様に感謝を。
by scluge
| 2007-06-05 07:54
| 絵