2007年 09月 15日
『夜明け前より瑠璃色な』ShortStory-“エステルが浴衣に着替えたら” |
残暑お見舞いのエステル絵にやまぐう様からお話をいただきましたので、掲載させていただきます。
凛とした中にも艶のある、ポニーテールのエステルをお楽しみくださいませ(^^)
“エステルが浴衣に着替えたら”
自分の胸が、いつになくどきどきと鼓動しているのがわかる。
好きな女の子の隣りを歩く。それだけでもちろん脈拍はあがるが、今日の高まりは彼女と恋人同士になれてから初めてというくらい激しい。
初めてなのも当たり前。そう、月から司祭として降りてきた少女、エステル・フリージアが初めての浴衣姿で隣りにいるのだから。
いつもなら俺が月人居住区の教会まで迎えに行くのに、今日はエステルのほうからこちらへ荷物を持ってやってきた。家に入ってきてすぐ、「待ってました」と声をかけたのは麻衣。いったいどういうことと尋ねるより早くふたりが部屋に消えてしまい、俺は呆気に取られることに。
しばらく待って、エステルが部屋から出てきた。粋で艶やかな浴衣をまとい、美麗な髪をポニーテールにまとめて。
意表を突かれ、待たされたときより遥かに呆然となった。
しばらく空気が固まり、揺らしたのはくすくすという笑い声。
「ほら、言ったとおりでしょ。お兄ちゃん、エステルさんに見惚れてる」
にこにこと麻衣に言われてはっとなって、ますます身が強ばってしまった。俺の前でエステルも、頬を赤らめている。
「いってらっしゃあい」
背を押して俺たちを運び、わざわざ玄関で見送りまでしてくれるまめな妹。もてなし半分、からかい半分ってところだな。
「え、えっと、着替えたのは麻衣に言われて?」
「ええ。達哉といっしょに遊びに行くことを言ったら、薦めてくれたので」
尋ねることができるようになったのはしばらく歩いてから。答えをもらってぎこちなさが薄れ、あらためて月人少女の浴衣姿を横目でじっくり観察する。
……素敵だ。
礼拝堂で映える法衣、普段のデートで着ている私服、そして今は浴衣。
桃色の髪をポニーテールにくくるリボン、髪の形。帯できっちり腰まわりを締め、美しい体のラインが浴衣を通してくっきりと出ている。
……ため息が出そうだ。
スフィア王国にこういうタイプの服はないと聞いているから、着るのは初めてのはず。それがここまで似合うなんて、びっくりだ。
「え、えっと……」
「浴衣、それにその髪、よく似合ってるよ。薦めた麻衣に感謝だな」
俺の視線に羞じらうエステルへ、遅ればせながら賛辞を呈する。

目もとと頬がそれぞれピンク色に染まり、いったんうつむき、振りあがったときには嫣然とほほえんでいる。浴衣にマッチした艶やかさにまたひときわ大きく胸が高鳴った。
そっと腕を出せば、浴衣の似合う少女が優しく取って、寄り添いあう。歩む速度をわずかに落とし、この姿で楽な早さで進んでいく。
…
……
楽しい時間はすぐに流れてしまうもの。彼女の初めての美しさを堪能したデートの時間が終わって、行きに通った道を今度は反対向きに歩いている。
ふたりで過ごした時間を振りかえりながらのおしゃべり。それが少しずつ、途切れがちになる。
楽しい時間は罪だ。だっていつも、別れを寂しくしてしまうのだから。また会えるとわかっていてもそばにいられなければそれだけで寂しい。贅沢と言われるだろうが、そう思ってしまい、胸が締めつけられそうに感じる。
「夏のあいだに、この姿をもう一度見せてほしいな」
俺の家が迫り、そろそろ浴衣姿が終わると意識して、口に出した。夏のあいだといっても、もう秋といってもおかしくない時季。だから俺は、明日にもまたというくらいのつもりで言っていた。
エステルも同じことを意識していたのだろう。間髪いれずに答えが返ってきた。
「達哉が望むのなら喜んで。でも、お願いがあります」
「お願いって、どんな?」
小首をかしげると、エステルは小さく息を吸って、勢いをつけて一気に言った。
「達哉も浴衣を着てください」
言ってから、ちらっと俺の全身を見る。
なるほど。せっかく素敵な姿になったエステルの隣りにいる俺は、いつもと変わりなく、ずいぶんと野暮くさい格好だった。
言ってしまって恥ずかしそうにするエステルの手をきゅっと握り、笑顔でうなずく。
「もちろん。でも俺って小さいころの浴衣しか持っていないから、新しいのをエステルに選んでほしいな。新調して、お揃いにしよう」
「え? でも私は、今日だって麻衣さんに選んでもらって」
「そんなに素敵に着ているじゃないか。今のエステルの浴衣が綺麗で、それに合わせたい。だからエステルに選んでほしい」
真剣な目で思いを伝えれば、素敵な彼女がうなずきかえしてくれる。
「よし。じゃあ次のデートは買い物だ。いつにしようか?」
エステルが瞳を輝かせる。新たな浴衣姿にふたりで思いを馳せて、現金なものでそれから家に着くまで別れも寂しさも忘れてしまっていた。
というわけで、浴衣エステルはいかがだったでしょうか。良い文章を書いてくださったやまぐう様に感謝です。
ブタベ個人として、一度くらいはフィーナかエステルでポニテをやってみたかったのですが、今回エステルでそうなりました。エステルに見えていれば良いのですが。
文章では浴衣は麻衣に借りている?形になりますね。麻衣は以前のカテリナ制服のとき、朝霧様の文章(エステルSS「桜の花をながめよう」)で
「ううう、あらためて事実を突きつけられてショックを受けている麻衣ちゃんなのですよ……」
と、しょぼ~んとなっているのですが、今回は浴衣のせいかそういうシーンにはならず(笑) …そうならないように麻衣は浴衣をセレクトしたのか?(考えすぎ)
で、この浴衣SSのあと、もう一度浴衣を(今度は二人で着る形で)早坂様のエステルSS「人として」につながるということで(ヲイ この後日談でやっぱり麻衣はしょぼーん、となるわけで(^^; …や、ブタベは麻衣をいじめる気はないのですが。
…やや時系列に無理があるかもしれませんが、絵描きとしては皆様の文章をこうして勝手につなげて一つのお話にするのはとても楽しかったりします(^^;
で、私信>
>豹変
…それもありかも、ですね(笑)
達哉がこらえきれずに押し倒したかと思ったら、なぜか主従逆転。
凛とした中にも艶のある、ポニーテールのエステルをお楽しみくださいませ(^^)
“エステルが浴衣に着替えたら”
自分の胸が、いつになくどきどきと鼓動しているのがわかる。
好きな女の子の隣りを歩く。それだけでもちろん脈拍はあがるが、今日の高まりは彼女と恋人同士になれてから初めてというくらい激しい。
初めてなのも当たり前。そう、月から司祭として降りてきた少女、エステル・フリージアが初めての浴衣姿で隣りにいるのだから。
いつもなら俺が月人居住区の教会まで迎えに行くのに、今日はエステルのほうからこちらへ荷物を持ってやってきた。家に入ってきてすぐ、「待ってました」と声をかけたのは麻衣。いったいどういうことと尋ねるより早くふたりが部屋に消えてしまい、俺は呆気に取られることに。
しばらく待って、エステルが部屋から出てきた。粋で艶やかな浴衣をまとい、美麗な髪をポニーテールにまとめて。
意表を突かれ、待たされたときより遥かに呆然となった。
しばらく空気が固まり、揺らしたのはくすくすという笑い声。
「ほら、言ったとおりでしょ。お兄ちゃん、エステルさんに見惚れてる」
にこにこと麻衣に言われてはっとなって、ますます身が強ばってしまった。俺の前でエステルも、頬を赤らめている。
「いってらっしゃあい」
背を押して俺たちを運び、わざわざ玄関で見送りまでしてくれるまめな妹。もてなし半分、からかい半分ってところだな。
「え、えっと、着替えたのは麻衣に言われて?」
「ええ。達哉といっしょに遊びに行くことを言ったら、薦めてくれたので」
尋ねることができるようになったのはしばらく歩いてから。答えをもらってぎこちなさが薄れ、あらためて月人少女の浴衣姿を横目でじっくり観察する。
……素敵だ。
礼拝堂で映える法衣、普段のデートで着ている私服、そして今は浴衣。
桃色の髪をポニーテールにくくるリボン、髪の形。帯できっちり腰まわりを締め、美しい体のラインが浴衣を通してくっきりと出ている。
……ため息が出そうだ。
スフィア王国にこういうタイプの服はないと聞いているから、着るのは初めてのはず。それがここまで似合うなんて、びっくりだ。
「え、えっと……」
「浴衣、それにその髪、よく似合ってるよ。薦めた麻衣に感謝だな」
俺の視線に羞じらうエステルへ、遅ればせながら賛辞を呈する。

目もとと頬がそれぞれピンク色に染まり、いったんうつむき、振りあがったときには嫣然とほほえんでいる。浴衣にマッチした艶やかさにまたひときわ大きく胸が高鳴った。
そっと腕を出せば、浴衣の似合う少女が優しく取って、寄り添いあう。歩む速度をわずかに落とし、この姿で楽な早さで進んでいく。
…
……
楽しい時間はすぐに流れてしまうもの。彼女の初めての美しさを堪能したデートの時間が終わって、行きに通った道を今度は反対向きに歩いている。
ふたりで過ごした時間を振りかえりながらのおしゃべり。それが少しずつ、途切れがちになる。
楽しい時間は罪だ。だっていつも、別れを寂しくしてしまうのだから。また会えるとわかっていてもそばにいられなければそれだけで寂しい。贅沢と言われるだろうが、そう思ってしまい、胸が締めつけられそうに感じる。
「夏のあいだに、この姿をもう一度見せてほしいな」
俺の家が迫り、そろそろ浴衣姿が終わると意識して、口に出した。夏のあいだといっても、もう秋といってもおかしくない時季。だから俺は、明日にもまたというくらいのつもりで言っていた。
エステルも同じことを意識していたのだろう。間髪いれずに答えが返ってきた。
「達哉が望むのなら喜んで。でも、お願いがあります」
「お願いって、どんな?」
小首をかしげると、エステルは小さく息を吸って、勢いをつけて一気に言った。
「達哉も浴衣を着てください」
言ってから、ちらっと俺の全身を見る。
なるほど。せっかく素敵な姿になったエステルの隣りにいる俺は、いつもと変わりなく、ずいぶんと野暮くさい格好だった。
言ってしまって恥ずかしそうにするエステルの手をきゅっと握り、笑顔でうなずく。
「もちろん。でも俺って小さいころの浴衣しか持っていないから、新しいのをエステルに選んでほしいな。新調して、お揃いにしよう」
「え? でも私は、今日だって麻衣さんに選んでもらって」
「そんなに素敵に着ているじゃないか。今のエステルの浴衣が綺麗で、それに合わせたい。だからエステルに選んでほしい」
真剣な目で思いを伝えれば、素敵な彼女がうなずきかえしてくれる。
「よし。じゃあ次のデートは買い物だ。いつにしようか?」
エステルが瞳を輝かせる。新たな浴衣姿にふたりで思いを馳せて、現金なものでそれから家に着くまで別れも寂しさも忘れてしまっていた。
というわけで、浴衣エステルはいかがだったでしょうか。良い文章を書いてくださったやまぐう様に感謝です。
ブタベ個人として、一度くらいはフィーナかエステルでポニテをやってみたかったのですが、今回エステルでそうなりました。エステルに見えていれば良いのですが。
文章では浴衣は麻衣に借りている?形になりますね。麻衣は以前のカテリナ制服のとき、朝霧様の文章(エステルSS「桜の花をながめよう」)で
「ううう、あらためて事実を突きつけられてショックを受けている麻衣ちゃんなのですよ……」
と、しょぼ~んとなっているのですが、今回は浴衣のせいかそういうシーンにはならず(笑) …そうならないように麻衣は浴衣をセレクトしたのか?(考えすぎ)
で、この浴衣SSのあと、もう一度浴衣を(今度は二人で着る形で)早坂様のエステルSS「人として」につながるということで(ヲイ この後日談でやっぱり麻衣はしょぼーん、となるわけで(^^; …や、ブタベは麻衣をいじめる気はないのですが。
…やや時系列に無理があるかもしれませんが、絵描きとしては皆様の文章をこうして勝手につなげて一つのお話にするのはとても楽しかったりします(^^;
で、私信>
>豹変
…それもありかも、ですね(笑)
達哉がこらえきれずに押し倒したかと思ったら、なぜか主従逆転。
by scluge
| 2007-09-15 14:55