2007年 11月 29日
デベロッパーの意思 |

フォーチュン・アテリアルのニーソ担当はかなでだけなので、いつか描こうと思っていた絵です。上着を着せるとしっちゃかめっちゃかになるので、合服っぽいものにしてみましたが、帽子も外したのはやりすぎかな?えちシーンのイベント絵にも帽子があるくらいなので、被せておいたほうがよかったかも。
【FORTUNE ARTERIAL sub-shortstory 幸運の羽】
常春のように温暖な珠津島にももちろん秋はやってくる。
それでも小春日和といえるような陽気の日は寮の部屋もかなりあったかい。
陽気に誘われてか、窓の向こうに見える海浜公園のほうでは、渡り鳥が楽しそうに飛んでいた。
本当なら宿題を片付けてしまうには最高の日のはずなのだが。
「…かなでさん」
「んー、こーへー、何かな?」
いい加減、耐え切れなくなった俺が問題の発生源に声をかける。
当のかなでさんは平気な顔で返事を返してくる。
「お願いですから、着替えもしないで俺の部屋でくつろがないでください」
「えへへー、大丈夫大丈夫」
「何が大丈夫なんですか!?」
寝っころがっているだけとは言え、宿題をしている俺にとってはかなり気が散る。
不機嫌さのこもった俺の声を聞いても、にっこり笑って大丈夫という姉的存在。
「今日はね、オフの日にしたの」
「オフ?」
「そう。寮って、年中無休、24時間営業、地震・雷・火事・親父が来ても動いてるでしょ?」
「親父って…まぁ、いいです。そりゃ寮ですし、皆いますから…」
微妙に論点がずれ始めてる気もしないではないが…とりあえず耳だけ傾けておく。
なんだかんだ言って、かなでさんはそれなりに考えている人だ。多分。
「いくら寮長さんでもね、さすがに24時間戦えないのです。だ・か・ら」
「だから?」
「こーへーのお布団で休んでエネルギー充填、っていうことで」
「………」
おかしい。
学院でも副会長と張り合うくらい『元気活発』は売るほど余っているかなでさんが、いかにも『疲れた』と言わんばかりのことを言う。
「へへへー、こーへーのお布団ってあったかいね~」
足をプラプラさせながら、ベッドの上でごろん、と一回転する。
普通の男子の体格なら、壁に足をぶつける所だが、小柄なかなでさんはぶつかりもせず、にこにこ笑っている。
と言うか…さっきからちらちら見えている縞模様のアレがはっきり言って目の毒だ。
「…他のやつらが来たらどうするんです?」
司くらいなら、笑って済ますことも出来るだろう。ただ…見つかるとうるさいのも、もちろんいる。
何回となく、監督生室で尋問を受けた経緯をふと思い出す。
…こないだのはかなでさんが黒いワンピースを着ていたときだったか?
「んー、そろそろかも」
「はい?」
疑問とも不可解とも取れる俺の声と同時に、俺の部屋のドアがばたんっ、と開く。
「おおおお、お姉ちゃんっ!!!???」
「よう、陽菜」
「こ、こんにちは、孝平くんっ…じゃなくてっ!」
「あー、見つかっちゃった」
残念そうな、でも嬉しそうな、微妙に複雑な笑い方をしながら、ぺたん、とベッドの上で女の子座りをする。
「お、お姉ちゃん…よかったぁ・……」
へなへなとその場で陽菜まで同じような座り方をする。
「何なんだいったい」
よく耳を澄ましてみると階上からはわー、とか、きゃー、とかドタバタした音が聞こえる。
俺の部屋の真上はかなでさんの部屋だ。
「あ、あのね…お姉ちゃんの部屋にこれが…」
「ん…何々…」
さっきへたり込んだときに床に落ちた紙を拾って、陽菜が俺に見せる。
毛筆で、達筆に書かれたそれは、意外な言葉を伝えていた。
“人生に絶望しました。旅に出ます。探さないでください。 悠木かなで”
「はぁ?」
な、なんだこりゃ。思わず紙とかなでさんの顔を何度も見比べてしまう。
「そ、それでね…お姉ちゃんの部屋が空っぽだったの…」
聞けば、衣類とか、家財道具一式、お気に入りの鍋も全て消滅してしまっていたらしい。
…なるほど、さすがに陽菜が青くなるわけだ。
と言うか、上の騒ぎはこれが原因で、女子寮生全員が混乱に陥ってるんじゃなかろうか。
「…陽菜」
「……うん、何?」
「なんとなく状況は分かったから、上の騒ぎを止めてきてくれないか?」
「あ…うん。……お姉ちゃん」
「大丈夫だよー、ヒナちゃん。逃げないから」
ぱたん、と静かな音を残して陽菜が俺の部屋を出て行く。
「かなでさん」
「はい」
床の上に座って、改めてかなでさんと向き合う。もちろんかなでさんには座布団を渡してある。
「皆に迷惑をかけてる自覚はあると思いますけど、理由くらい聞かせてもらえますよね」
「順位がね…」
「順位?」
「いっつも一番下なんだよー」
「『テックジャイアン』の人気投票とか、宣伝バナーの設置数とか、ぜーんぶ私ばっかり一番下なの~~~っ」
「……どこの異次元の話ですか!?」
「う~ん…神人の暴れてる閉鎖空間?」
「暴れまくってるのはかなでさんですっ…ていうか、作品が違いますっ!?」
いい加減疲れてきた。
いや、かなでさんが原因で疲れるのはいつものことだけど。
茶化したような物言いの割には、しょぼ~ん、としているかなでさんは本物だ。
「やれやれ…」
普段、そういうことは気にしてないように見えて、結構傷ついていたのだろうか。
元気なときも破天荒極まりないが、落ち込んだらやり方が余計に破滅的だ。
「だって…寮長さんが皆に愛想つかされたらやっていけないよ…」
「こーへーも、お姉ちゃんが『五番目の女』なんていわれてたら嫌でしょ?」
すっかり自信をなくしてしまったようなかなでさん。
ああ、そうか。
問題が問題だから、妹の陽菜や他の女子に相談するわけにも行かず、俺の所に転がり込んできてしまったんだ。
「大丈夫ですよ」
ぽん、とかなでさんの頭の上に手のひらを置く。
「ふぇ」
「まだ本番はこれから始まるんですから」
「でも…」
「舞台が始まってもいないのに、役者が落ち込んでたら始められないじゃないですか」
「うん…」
「それに、かなでさんならスタートにハンデがあろうが、第四コーナーで殿だろうが、あっという間にゴボウ抜きしそうなタイプです」
「……」
「だから、絶対に大丈夫です」
「こーへー、人を馬に喩えるのはしつれーじゃないのかな?」
ちょっと怒ったような、にらむような目つきで俺を見る。
やば、怒らせたか。
「い、いや、そういうつもりじゃなくてですね」
火に油を注ぐような感じになってしまって、あわてて俺は訂正する。
「えへへ、分かってるよー♪」
一転して、まぶしいくらいの笑顔になるかなでさん。
「うんうん、まだ始まってもいないのに落ち込んでちゃだめだよね」
何度もうなずいて、納得するしぐさをする。ぴょこん、と伸びた頭の上の毛がふりふり揺れる。
「うん、おねーちゃん、がんばるよ!!」
―――幸運の羽は笑顔の肩に舞い降りる
どこかで聴いた古い言葉。今のかなでさんにぴったりの言葉だった。
実際、始まってからどうなるかは分からないけど、きっと…そんな感じの予感がした。
「ところでこーへー」
「はい?」
「君の中ではおねーちゃんは何番目なのかにゃ~?」
「いいっ!?」
にやり、と言う表現が正しいだろうか。妖しげな笑顔を浮かべて俺のほうに迫ってくる。
「あれだけ言って、君の中でも最下位だったら…分かってるよね~。ほらほら、さっさと吐きなさ~い」
「ええっと…」
「うりうり~」
「さ、最下位じゃないですよ」
「なら一番なのかにゃ~」
「うぅ…」
「お姉ちゃんっ!?」
「悠木先輩っ!?」
バタンッ、と音がして扉が開く。
ああ、そうか。上の階の騒ぎを止めて、陽菜が降りてきたんだ。瑛里華は原因究明役といったところか。
二人を冷静に分析した俺とは反対に、二人は扉を開けた瞬間そのままで固まっていた。
「?」
「………孝平君…」
震える指で俺たちを指差す。
改めて、俺とかなでさんの状況を確認してみる。
後ずさりした俺の上にかなでさんが乗っかっている。
……。
………。
…………まずい。
「支倉君」
「…はい」
「あとで悠木先輩と一緒に監督生室に来ること。いいわね」
「了解」
有無を言わさない副会長の言葉に俺は頷くしかなかった。
その後、女子寮生みんなにかなでさんと一緒に謝って回ったり(例の理由は伏せてはいたが)、監督生室で絞られたり(さすがにかなでさんも今回は神妙にしていた)したが、とりあえず普段と同じ白鳳寮の生活に戻った…らしい。
「そういえばかなでさん」
「うにゃ、なにかな、こーへー」
「家財道具一式、全てすっからかんになってたって聞きましたけど、いったいどうやって隠したんです?」
そもそも、一人で片付けたんだろうか。誰にも気づかれずに。
着物はともかく、ベッドまでなくなってるって…
「それはもう、天袋だったり、床下だったり」
「ウチの寮はそんな構造になってませんよ」
「ふふ~ん、女の子にはね、秘密の隠し場所がいっぱいあるんですよー」
「ああ、密輸でよく使われる手で…って、ナニ言わせるんですかっ!!?」
「へ~、こーへーは何のことだか分かっちゃったんだ♪」
「かなでさんが言わせてるんじゃないですかっ」
「えへへっ、冗談だよ。まぁ、隠し物は色々方法があるからねっ」
いかにも楽しげなかなでさんの笑顔。
あの時、俺の部屋で見せたあの表情がまるで嘘だったかのようだ。
ただ…あの不安そうなかなでさんを忘れることも出来ないだろう。
「ほらほら、こーへー、いっくよーー!!」
「はいはい…」
ぽりぽりと頭を掻いてから、前を行くかなでさんを追いかける。
四年坂を降りていくかなでさんの、更に向こうには青い空が広がり、海鳥が羽ばたくのが見えた。
珠津島と言う舞台の幕が上がるのはこれから。
かなでさんの肩には、幸運の羽は舞い降りているだろうか。
微妙に現実と本編世界をごちゃ混ぜにしたような感じになってしまいました(笑) こういうふざけたお遊びについては、お叱りは粛々と受け止めますので、ご容赦を。黒歴史以前に歴史にすらならないお話ですね~(^^;
このお話を書いた理由は…まぁ、本文の中のことと同じで、かなでさんの順位の問題で…ちょっと悔しいので(笑) さすがにこの長さになるとは思ってませんでしたが。
基本的にかなではプラス方向の暴走が多いと思うのですが、たまにはマイナス方向のもあってもいいんじゃないかなぁ、と思って書いてます(やりすぎの感がありますが)。さて、本編ではどうなるのやら。
ちなみに、小春日和、転じて【小さな嘘つき】にしようかと思ったのですが、話がややこしくなりそうだったので、また別のお話にて。白のお話も書いてみたいですね。
by scluge
| 2007-11-29 17:00
| 絵